対談
佐藤:
リーマンショックやコロナショック以降、企業を取り巻く環境が一変しました。企業の人事部の皆さんも、これまでにない厳しい現実に直面することが多かったのではないでしょうか。今年最後のコラムは、激動する時代のなかで、「これからの人事部そして人事担当者には、どのような役割が求められるのか」について、うかがいたいと思います。
人事屋:
ショック以降は、「100年に一度の大不況」と言われ、過去最低水準の昇給、少子高齢化の影響もありかつてない低額の賞与支給、新卒の厳選採用、労働力不足など、人事責任者の方にとっても、大変な人事業務が多かったと思います。このような厳しい社会環境の時ほど、人事部が果たすべき役割は非常に重要です。時代の変化に即した対応ができる人事部として、企業のなかでのリード役が強く望まれてくると思います。今回は、これからの時代に、人事部全体に望まれる役割と姿勢について考えていきましょう。
人事の課題
佐藤:
人事部(人事担当者)にとって、いま一番重要な課題は何でしょうか。
人事屋:
企業規模、業種、地域性によって多少異なると思いますが、刻々と変化する社会環境のなかで、人事責任者には、現時点での、自社の経営状況(環境)の把握と、人事部に課せられている新たな人事施策を正しく認識することが求められています。人事責任者は、それらの課題に対して、即効性と柔軟性をあわせ持った難しい判断を下し、確実に業務を遂行しなければなりません。この大不況下においては、人事施策の計画と実施に与えられる時間は限られています。社会の状況や実情を明確に把握するための情報が交錯しているので、「これが正しい」という判断基準を定めるのは難しいでしょう。そのため、人事責任者は、ありとあらゆる場面を想定して対応策を準備しておくことが大切です。
現在、自社が置かれている環境下では、これまで人事部が実施してきた施策が、必ずしも適切であるとは限りません。いま、人事部(人事担当者)にとって一番重要な課題は、「人事部(人事担当者)としての責務の軸をぶらさないこと」「正解がひとつではない課題について、自社なりに解き明かし、備えておくこと」の2つだと思います。
佐藤:
今後、人事部や人事担当者は、経営層や社員をどのようにサポートしていけばよいのでしょうか。
人事屋:
人事担当者には、部内の役割や立場にもよりますが、“経営側(使用者)としての経営参画の仕事”と、“社員に人事関連全般と福利厚生面のサービスを提供する仕事”の、2つの重要な責務があります。人事部は、先ほどの2つの「課題」に、それぞれの立場で真剣に取り組むことが大切です。人事担当者としてミスがなく、経営者・社員のどちらからも信頼される資質(能力)を備えている……そんな部署であることが重要だと思います。
人事部に望まれる、経営層に対するサポートは、「全社の人事組織を活性化し、経営目標と事業方針にそった組織力のベクトルを揃えること」です。“職場と密接なコミュニケーションをとること”、そして“いま、自社がなすべきことを、経営層に提言すること”が大切な役割となります。このサポート力が、今後の経営にも大きく影響してくるでしょう。
佐藤:
厳しい環境のなかで働く社員は、不安を抱えることも多く、メンタル面でのケアが必要なケースも年々増えています。人事部にとっては「社員の目線に立って、サポートしていくこと」も重要だと思いますが、どのようなことが望まれますか。
人事屋:
社員に対する人事部の基本的なサポートは、「安心して仕事に集中できるよう、職場生活をスムーズに過ごすための手助け(支援)をすること」です。人事部の役割は、家庭でいえば“母親”と同じです。“母親”は、夫や子供たちが毎日安心して過ごせるように、健康に留意した食事づくり、掃除、洗濯を毎日欠かさず行い、時には、子供を叱ったり、元気づけたり、子供の相談にのったりすることもあります。
私は、人事部は、会社の“母親役”として、“何でも屋さん”や“社員のよろず相談所”の役割を担うことが大事だと思っています。社員が、日々の職場生活に不安を感じていても、人事部を信頼していなければ、“よろず相談所”には誰一人として訪ねてこないでしょう。
まずは、社員から頼られる人事部を目指すことです。ここで大切なことは、マニュアル通りの対応ではなく、社員一人ひとりに、親身になって接する姿勢です。
佐藤:
これからの人事部や人事担当者に必要な力、姿勢とは何でしょうか。
人事屋:
会社のリード役として、社内で中心的な役割を担う人事部には、「時代の変化を認識し、環境に適応する力」が必要だと思います。そして、「人(相手)の気持ちを理解し、いま、自分がすべきことを正しく行動に移し、その結果に対して、責任と改善意識を持ち続ける姿勢」が重要ではないでしょうか。